IABの視点から見るiOS14の変更点と影響

はじめに

Apple iOS14のリリースが迫ってきました()。特にデジタルマーケターが気にしているのはiOSの広告識別子である「IDFA」の使用がオプトイン方式になるというアップデートで、ターゲティング広告の更なるパフォーマンス低下などを懸念する声が大きいようです。これらのアップデートに関しては、先日Facebookも「Facebookのプラットフォームを利用する開発者と広告主が大きな痛手を被る」という見解を出していましたが、IABではAppleによるこれらのプライバシー関連の機能アップデートをどのようにとらえているのでしょうか?

7月24日に投稿されたIAB Tech Labのブログ記事IOS 14 PRIVACY FEATURES IMPACT: WHAT ADVERTISERS NEED TO KNOW(iOS14 プライバシー機能の影響:広告主が知っておくべきこと)」から、主要なアップデートの解説とともにIABのスタンスを読み解いていきたいと思います。

)注意
9月4日、AppleがiOS14でのIDFA制限適用を2021年まで延期するという発表をしましたが、ここではTech Labの元記事の内容にもとづいてIDFA制限の内容も含めて記載しています。

目次

エグゼクティブサマリー

まず、エグゼクティブサマリーとして以下の内容が記載されています。
(原文抄訳)

  • 2020年9月の自動アップデートでほとんどのAppleデバイスが受け取ることになるiPhoneとiPad用のオペレーティングシステム「iOS 14」には、一般的なデジタル広告のビジネス活動に影響を与えるいくつかの独自プライバシー機能が導入される。
  • IAB/IAB Tech Labの知る限りでは、Appleはこれらの機能を設計する際に広告業界の専門家達には相談していなかった。
  • 独自のプライバシー機能は、ユーザーのプライバシーとデータ保護をより細分化し、予測しにくいものにしてしまう。
  • (今回Appleが導入するプライバシー関連の)各新機能は、既に存在している広告やデータの透明性と管理に関する標準(TCF)とコンフリクトを起こす可能性がある。
  • これらの新機能に対するユーザーのリアクションやデジタル広告キャンペーンへの影響を正確に見積もることはできないが、9月以降はこれまでのビジネスとは異なる状況になることは間違いない。
  • IDFAや、デバイスによって提供される位置情報が利用できなくなるからといって、目先のことだけを考えた回避策的な開発に向かうことには、IAB/IAB Tech Labは反対である。(そのような開発は不透明なユーザートラッキングを助長してしまうことになるため。)
  • その代わりに、業界とAppleや他のブラウザ、OSのプロバイダが協力し、デバイスやプラットフォーム全体として持続可能なアドレサビリティのためのプライバシーとデータ保護のスタンダードを開発することを強く求める。

IAB/IAB Tech Labは、iOS14で導入されるApple独自のプライバシー/データ保護機能については、デジタル広告の恩恵や利便性をまったく無視して設計されていることや、IABが推進しているようなオープンな標準とコンフリクトを起こしかねないことから、望ましいものではないと考えているようです。また業界全体に対しては、Apple仕様の抜け穴をつくような回避策的なアプローチは逆にユーザートラッキングの不透明さに拍車をかけることになるため止めるよう呼びかけると共に、Appleを含む全てのステークホルダーが団結してプライバシー/データの保護基準をつくっていくべきだと強く訴えています。

iOS14の全体的な影響

次に、今回の一連のアップデートによる全体的な影響について説明しています。
(原文要約)

  • 全体的にはビジネスやユーザーエクスペリエンスに重大な影響があり、業界として備えておかなければいけない。
  • ビジネスインパクトとしては、IDFAの使用がオプトイン形式となることでデバイスベースIDの可用性が大幅に減少する可能性が高く、それらのIDに依存しているほぼ全てのビジネス活動(オーディエンスのセグメンテーション、広告のターゲティング、測定、アトリビューション、プライバシーの選択設定など)に影響する。一般的には、広告IDの消失は平均52%の広告収入減少につながる可能性があるというGoogleの報告もある。アプリ事業者はユーザーにオプトインをうながすための動機付けをしっかりとする必要が出てくる。そしてユーザーのプライバシー保護に自分たちがどのように貢献できるか考える必要がある。
  • ユーザーエクスペリエンス面に関しては、IDFAを一律使用不可にするのではなくユーザーにオプトインの選択肢を与えているという点においては評価に値する。(例えば、SafariのITP、GoogleのPrivacy Sandbox、MozillaのEnhanced Tracking Protectionのように、”ユーザーのために”という大義名分の下にブラウザ側で勝手に意思決定をするアプローチよりもはるかに好ましい。)
  • ただし、独自路線を貫くAppleのプライバシー保護施策は、ルールのオープン化/標準化を目指すIABのスタンスとは一線を画する。Appleはオープンスタンダードを避け、透明性やプライバシーコントロールを独自に担保しようとしているが、ユーザーがメディアやサービスを利用する際に、画面やプラットフォームごとに異なる機能やアプローチが採用されるのではなく、共通のオープンスタンダードが採用されるべきである。IAB/IAB Tech Labは、Appleが(GoogleやMicrosoftのように)業界と協調しつつデータやプライバシーを保護できるような標準づくりに向けて取り組んでいくことを望んでいる。

このように、IAB/IAB Tech Labでは、AppleがIDFAの利用をユーザーの選択に委ねていることは評価に値するとしつつも、今回の変更が業界やビジネスに与える影響は大きく、ユーザーエクスペリエンス面においても、独自方策ではなくオープンスタンダードを採用したほうがよいとかなり強いニュアンスでAppleに訴えかけているように見て取れます。

次に、今回の主なアップデート4点について、それぞれの変更内容とそれに対するIABの考えを見ていきます。

①広告用識別子(IDFA)およびAppストアレベルの透明性・制御の変更

(原文要約)

■ iOS14での変更

  • ユーザーは、インストールしたアプリごとに、目的の如何を問わず、IDFAがいかなる当事者にも利用可能であることを明示的にオプトインする必要がある。
  • アプリ事業者は、プライバシー慣行の要約を提出することが求められ、これはApp Storeのアプリ説明ページに表示される。さらに、アプリ事業者はデータ処理の目的を自己申告することになり、この内容はユーザーにポップアップで表示される。これに対してユーザーがオプトアウトすると、アプリのデベロッパーやそれをサポートするテクノロジーにおいてIDFAが利用できなくなる。

■ IABの見解

  • IDFAが存在しない場合、広告キャンペーンは、フリクエンシーキャップ、リーセンシーの制御、測定や最適化、行動履歴によるセグメンテーションやターゲティング、高粒度のアトリビューションができなくなる。これは収益リスクへの影響を考えると非常に大きな変更である。
  • Tech Labは、IAB Europeとのパートナーシップのもと、Transparency and Consent Framework (透明性と同意のフレームワーク; TCF)を開発し、データ利用の透明性とコントロールのための仕組みを提供しており、これによりパブリッシャーやユーザーのプリファレンスについてシグナルを送ることができるようになっている。Appleもやろうと思えばこのような標準化された既存の仕組みからシグナルを読み取りデバイスの設定を行うことができるはずだが、それをせず独自のポップアップで同意を取得しようとするために、ユーザーには二重で同意取得の確認が行われることになり、ユーザーエクスペリエンスを悪化させることにつながる。
  • Appleは、すでに多くのアプリパブリッシャーが、TCFのような、法律を遵守できるように設計/標準化されたオプションを実装し提供しているという事実を無視してこのような独自施策を進めており、これはユーザーの「同意の疲労」を引き起こす。

アプリインストールのアトリビューションに関する変更

(原文要約)

■ iOS14での変更

Appleが2018年に導入したSKAdNetworkは、iOS上の広告キャンペーンのアトリビューションを(IDFAを使わずに)受け取るための方法のひとつだが、今回iOS14のリリースに伴いバージョン2となりインターフェースが更新される。iOS14では、キャンペーンがアプリインストールのコンバージョンを生成した際に、Appleに登録している「アドネットワーク」に通知するメソッドが提供されるようになる。

■ IABの見解

  • この新機能は設計上、今日のデジタル広告の複雑性をまったく考慮していない。(例えば、本機能のAPIでは広告トランザクションに3つの参加者しか指定しないなど、実用に耐えない設計。)また、複数あるモバイルマーケティングのコンバージョンタイプのうちアプリのインストールのみしかサポートしておらず、他のタイプのコンバージョンを無視している点も問題。
  • 実際、Tech LabではこのiOSの独自機能を利用するにあたり業界標準的なガイダンスを求める多くの企業から問い合わせを受けており、Tech LabのOpenRTBワーキンググループで対応に追われている。現時点で、業界的には、このような識別不能なアトリビューションレポートを生成することについての技術標準はまだ確立されておらず、Project Rearcを通じて提案を作成している最中である。

正確な位置情報へのアプリアクセスの制御

(原文要約)

■ iOS14での変更

現在、iOSユーザーは、オペレーティングシステムレベルでの「位置情報サービス」の設定を通じて、どのアプリが自分の位置情報にアクセスできるかをコントロールできるが、新機能ではユーザーは正確な位置情報についてアプリへの共有をオプトアウトすることができるようになる。ユーザーが一旦オプトアウトした場合、ユーザーはオプトアウトしたままになり、再度選択肢が表示されることはない。その場合、おおよその位置情報のみがアプリと共有される。

出典:https://9to5mac.com/2020/06/23/ios-14-tidbits-precise-location-toggle-quicktake-and-video-resolution-in-the-camera-app-for-more-devices/

■ IABの見解

  • オープンスタンダードに則っていないことは残念だが、ユーザーに選択権が与えられているという点に関しては評価できる。この変更はユーザーと広告エコシステムにとってポジティブなものである。ユーザーがオプトアウトした場合でも、広告主はユーザーのおおよその位置情報に合わせて広告をカスタマイズすることができる。
  • ただし、IAB EuropeとTech LabのTCFでも、メンバーにユーザーの”正確な位置情報データ “をクロスサイトまたはサイト/アプリレベルで制御するための共通のツールセットを提供しているので、Appleの提供するOSレベルでのオプトイン/アウトとTCFの提供するサイト/アプリレベルでのオプトイン/アウトで潜在的なコンフリクトが起こり得るし、二重に選択をしなければいけないことはユーザーエクスペリエンスを低下させる。

「トラッキング」業者を表示するプライバシーレポート

(原文要約)

■ iOS14での変更

「プライバシーレポート」では、ユーザーに対して、過去30日間にブロックされた全てのクロスサイトトラッカーのサマリーを表示する。これはiOS14とmacOS Safari(モバイルとデスクトップ)の両方で動作すると見られる。クロスドメイントラッキングはSafariのIntelligent Tracking Prevention(ITP)によって既にブロックされているが、今回のアップデートでは、ITPによってどの企業がブロックされているのかがユーザーに対して示されるようになる。(Appleがこのレポートのために既知の企業名をどのように導き出しているのかは不明。)

出典:https://www.macrumors.com/guide/ios-14-safari/

■ IABの見解

  • ブロックされた企業の一覧を表示すると、そこに羅列されているすべての企業が同じ目的のためにトラッキングをしているような印象を与えるが、実際にはフリクエンシーキャッピング、リーセンシーコントロール、行動ターゲティング、最適化やアトリビューションなど異なるユースケースがある。しかし消費者には「Appleが”何か良からぬこと”が起こることからユーザーを保護した」という単一の印象を与えてしまいかねない。これは、より良い広告体験をつくっていくという観点からは建設的ではない。(結局のところ、消費者は有料コンテンツよりも広告によってサポートされる無料コンテンツを圧倒的に好むのだから、この点は何とかすべき。)

  • このプライバシーレポートでは、多様なデータ利用概念についての説明は提示されないため、例えばパブリッシャーやテクノロジーベンダーが広告表示のフリクエンシーコントロールをしようとした場合と行動プロファイルを生成しようとした場合に同一のメッセージが表示されてしまう。これに対し、TCFでは消費者に対してデータ処理目的のリストおよびその処理目的のために採用されたベンダーのリストなど、より多くのコンテキストを提供している。

まとめ

結びとして記事の著者は、以下のようにコメントしています;

「プライバシーは、自分たちのデバイスを他社のデバイスよりも多く売るための戦いの手駒になるべきではありません。Appleがプライバシーとデータ保護を、ユーザーがどんなデバイスを買っても、どんなブラウザを選んでも維持できる権利ではなく、独自の利点として扱っているのは残念なことです。」

今回のアップデートに対するIABのスタンスをまとめてみました;

  • デジタルマーケティングのプライバシー領域でオープンな規格や標準化を進めたいIABは、独自路線のプライバシー機能の実装を続けるAppleのやり方には基本的には反対している模様。
  • とりわけ、Appleのプライバシー施策ではデジタルマーケティングの利便性への不利益がまったく考慮されていないことは遺憾である。
  • Apple独自の機能が、(TCFのような)オープンなプライバシー/データ保護標準と並列した際に、デジタル広告のエコシステムの中でどのように機能するのか、作用するのかを今後もしっかりと確認していく必要がある。

いかがでしたでしょうか?
IABが推進する、プライバシーをベースにデジタルマーケティングエコシステムの再構築する取り組み「Project Rearc」では、広告主やパブリッシャーのほか、ブラウザベンダーの協力も得たいと考えているものの、対話には苦労しているようです。今回のブログ記事は、対話姿勢を見せず頑なに独自路線を貫くAppleに対して、IABからの非常に強い提言ともとれる内容になっていたことが印象的でした。


IAB Tech Labについて

IAB Tech Lab (The IAB Technology Laboratory) は、米国のインタラクティブ広告業界団体であるIABが設立した、デジタルメディアとデジタル広告業界におけるグローバルな技術標準の確立と導入を促進するための国際的な研究・開発のコンソーシアムです。CCIは2017年1月からTech Lab会員となっています。